2018年に出版した『編集手本』(発行元:エジソン)は、伝説のエディター松岡正剛が70年を超える編集人生で「お手本」としてきたものを肉筆で綴った一冊。その独特な造本は、一枚の大きな紙に二本の切れ込みを入れて折りたたむだけの「手本折」と名付けたものでした。本書は、その造本デザインが第53回造本装幀コンクールで日本印刷産業連合会会長賞を受賞したことを記念し、部数限定で制作されたオリジナルプリントを付き特装版です。
『編集手本』特装版は、本書に図版収録している松岡正剛のドローイング(「ミノア」「ヴィンチャの女」「ドストエフスキー」「ゴーゴリ」)を含む合計14種類の連作版画「ハイパープリント」からどれか一枚のオリジナルプリント(シリアルナンバー付)を特典として付ける函入りの仕様です。
擬画「物語の出現」ハイパープリントについて
擬画というのは、自著にドロ一イングを載せたことを機縁に派生してきたもので、絵画というのはおこがましくて、名付けたものです。ハイパープリントは、高度なデジタルプロセスを駆使した技法によって生まれたもので、21世紀の版画としての可能性を秘めていると思います。
ぼくが版画にとりくむのは高校以来のこと、いったいどんなふうになるのやら、どぎまぎしながら制作に当たりました。いまだ未熟きわまりないものですが、ぼくなりに「言菓のある絵」「絵が文字を孕む」ということを意表しています。
それぞれの作品は少しずつシリーズ性を帯びています。9枚仕立てのハイパープリント「物語の出現」は古代オリエントや小アジアに取材したもので、土中から物語マザーが出現してくるところをやや複雑な手順をもって版画化してみました。そのほかの作品は、李白、ゴーゴリ、ドストエフスキー、マラルメ、コクトーなどの「語り」を引き取った擬画調のもの、これまであまりアート化されてこなかったスクリプト性を意向しています。
いずれも本歌を意匠の作分にしているのは、ぼくは本歌をもった意表・意向・意匠が好きだからです。それが目と手のストロ一クのあいだから生まれていくことにひたすら関心があるのです。
松岡正剛