フィリップ・ワイズベッカーの作品といえば、くらしの道具や身近なモチーフを描いたドローイングや油彩。紙や筆記具にこだわり、淡い色彩と定規の線で描くシンプルな造形は、世界中にコレクターがいます。今回は、はじめて「家具」がテーマの展覧会。会場となるATELIER MUJI GINZAには、必要に応じて作ってきた「自作の家具」が展示販売されています。アートディレクターの葛西薫さんが「足の着地がとてもいい」と絶賛したスツールは、販売用に20脚の限定で忠実に複製されました。ほかに、ドローイング作品、家具のスケッチ帖、パリのアトリエを収録した映像など、心地よい距離を空けて配置されています。
この企画展は、生活と創作が分かち難く結びついているワイズベッカーの日常を空間に展開しています。自作の家具で囲まれたパリの住居とアトリエを舞台に、起床から帰宅までの1日を記録した新刊『ホモ・ファーベル』は、とくべつな演出をせずに、たんたんと流れるドキュメンタリー映像のような仕立て。多くを語りたがらなかった本人の言葉は、「日常を組み立てる」と題したあとがきに濃縮しました。
展覧会のオープン前夜には、残念ながら来日できなかったワイズベッカーのいるパリと東京を中継でつなぎ、『ホモ・ファーベル』の発起人で編集者の櫛田理、過去にワイズベッカーの作品集などを手がけ、本書の帯文も寄稿してくださったアートディレクターの葛西薫さんを交え、3者によるトークイベントを実施しました。録画映像は、ATELIER MUJI GINZAのInstagramから無料で視聴することができます。
撮影:宮本敏明