2020年9月18日(金)無印良品発行のガイドブック『GINZA』を刊行しました。
日本の商業と文化を牽引してきた銀座に無印良品の世界旗艦店がオープンしたのは2019年4月。開業一年を迎え、土着化の一環としてこれまでにないローカルな銀座を紹介するガイドブック企画を立ち上げました。
うまい定食屋、ふしぎな路地裏、花街の銭湯、15時にひらくバーなど、すべての取材を独自に行い、「生活者にも、旅行者もたのしめる」すこやかな銀座を紹介する文庫サイズの書籍となりました。
無印良品銀座のスタッフから「オススメの銀座」を募集するところからはじまった本企画。集まったアンケート結果を片手に、伊坂さおりさんをはじめとする無印良品銀座イベント担当スタッフと編集部メンバーが、銀座の街を端から端まで歩き回りました。多いときには、一日二万歩を超える歩数を記録しながら。
取材をスタートした3月。コロナウイルスの渦に取り巻かれ、銀座から少しずつ人影が減り、シャッターが降りたままの路面店が増え、あまりに静かな街の空気に押し潰されそうになったとき、支えてくださったのは、ほかでもない銀座の街のみなさんでした。
行く先々で、励まされるようにして「こんなときだからこそ、お互いがんばりましょう」とお声がけいただき、おこがましいとは思いながらも、銀座の街との一体感さえ覚えたのでした。そんな一体感を誰よりも共有できたのは、取材の全行程を共にしてくださったカメラマンのキッチンミノルさん。過密スケジュールにも悪天候にも、コロナウイルスの不安にも負けず、常に前向きに現場と向かい合ってくださったキッチンさん。厳選した銀座の街の一番おいしい瞬間を、ていねいに撮影してくださいました。
企画当初、巻頭ページには読者にとって実用的な情報を掲載する計画でしたが、取材を続ける内に銀座で待っている人がいることを伝えたいという思いが強くなり、最終的には手描きの銀座の街全体マップと、銀座で働く人の「仕事服」を取材し、特別に描きおろしたイラストを掲載しました。イラストを担当してくださった SHIMA ART & DESIGN STUDIO の小島沙織さんと島田耕希さんは、本書のために何度も銀座の街に足を運んでくださり、20世紀初頭に銀座の街頭で街ゆく人々の服装などを丹念に調査した考現学者の今和次郎の如く、見事に銀座の現在を描き出してくださいました。やわらかで繊細なイラストを通して、銀座の人たちのあたたかさや懐の深さを、感じていただけたらと思います。
印刷製本は、江東区大島にある篠原紙工さんにご相談しました。担当の小原一哉さんはご自身も大の本好き。私たちの「手に馴染む、使い古した地図のような手ざわりを再現したい」という無理難題にも、情熱と最高のチーム力を以って解決してくださいました。 一番の特徴は、小口に「ファイバーラッファー」と呼ばれる通称「ボロ加工」を施したことです。本来は書籍の背表紙と内頁のノドの接着を強固にするために施されるこの加工効果は、通常読者の目に触れることはありません。今回はこの加工によって、通常ツルツルとして無機質な小口が、ザラザラボコボコとした表情豊かに仕上がり、いくつか積み上げてみると、まるで白い煉瓦のような印象に。
銀座は明治5年に起きた”銀座大火”の後に煉瓦造りの街としても有名になりました。銀座ではいまでも建築工事中に、地中から当時の煉瓦が出土することがあるのだとか。ささやかではありますが、銀座の煉瓦の記憶を感じさせるべく、無印良品銀座では、小口側が見えるように積み上げてディスプレイしています。
漫画家・文筆家の杉浦日向子が「町というものは道や建物ではなく、人がつくるもの」という言葉を遺していますが、銀座はまさに、人の街でした。銀座に世界中から人が集まるのは、待っている人がいるから。
銀座の人たちは、ここにしかない風土を失わないよう、本質を見定め、保ち、発展させようと、仲間と力を合わせ、日本随一、唯一無二の街づくりに取り組まれています。
文庫サイズの小さなこの本には、到底おさまりきらない、たくさんの銀座物語が詰まっています。是非、本書を片手に銀座の街を歩いてみてください。『GINZA』をきっかけに、読者の皆さんそれぞれの銀座物語が生まれることを期待して。